
TVアニメ『リィンカーネーションの花弁』第十二輪放送記念!
扇寺東耶役 千葉翔也さんと久藤瞬監督の対談インタビューが公開!
アニメでこだわった「色」
監督から見た原作の印象をお聞かせください。
久藤 シンプルに面白かったです。その一方で、アニメ化する上では、どう映像として組み立てるかをかなり考える必要がある作品だとも感じました。ドラマの展開や主人公の見せ方も含めて、TVアニメとしてどう整理すれば魅力がより伝わるかを考えたいと思ったんです。
そんな中、なぜ監督を引き受けようと思ったのですか?
久藤 大きかったのは、原作に“映像として色を重ねられる余白”を感じたことです。コミックスはモノクロ表現ならではの強さがあり、キャラクターや異能バトルの魅力が、読者の想像力に委ねられている部分も多い。そこにアニメならではの色彩や光を加えることで、作品の魅力を別の角度から立ち上げられるのではないかと思いました。
千葉 監督をお願いされてから、原作を読んだんですか?
久藤 そうですね。いくつか企画をいただいていた中のひとつとして読みました。『リィンカーネーションの花弁』は3巻まで読んだ段階で、この作品なら、自分が監督として関わる意義があると率直に感じました。
色と異能バトルもののバランスという部分を、少し詳しくお聞かせください。
久藤 この原作をアニメにする場合、色を作品の大きな魅力として打ち出すことは、早い段階で決めていました。観ていただければ感じていただけたと思うのですが、画作りは少し特徴的にしています。原作の持つ余白から、色を新たに構築することになるので、非常にやりがいがありましたし、最終的に今のルックにつながっていきました。
確かにOPアニメーションから色が立っていましたし、アニメの色彩設計にも特徴を感じました。
久藤 色彩もそうですし、キャラクターの感情や関係性をどう色で見せるかも大事にしました。小西幹久先生の原作は、設定やギミックの構築が非常に魅力的で、そこから物語が大きく展開していく作品だと感じています。だからこそアニメでは、そこに感情の流れや空気感を色で重ねていくことに、自分が関わる意味があると思いました。
具体的に、どんな工夫をされたのですか?
久藤 少しマニアックな話をすると、アニメでは撮影処理やフィルターを重ねて画面を作る方法もありますが、今回はそれを主に頼らず、色の三原色やリムライトを使いながら、視線の誘導や感情の流れが自然に伝わる画面作りを意識しました。背景も場面によって少し印象的な色にしているのですが、それはキャラクターの感情や心情に合わせて色を変えています。感覚としては、舞台照明に近い考え方で画作りをしていました。
色をアニメ主体で考えられたからこその演出だったのですね。千葉さんは、ここまでの話を聞いていかがですか?
千葉 原作がモノトーンに感じたというのは、確かにそうだなと思いました。カラー絵で色を見たときに、このキャラってこういう色だったの!と感じることがあるメディアが漫画だと思っているので、『リィンカーネーションの花弁』は、その情報がほとんど必要なかった珍しいタイトルだと思っていたんです。だから今、アニメで色を付けるようにしていたと聞いて、腑に落ちました。なぜ、その色を使っているのかが新鮮だったので。
色で心情なども表現していたんですね。
千葉 みんな頭がいいキャラクターなので、発言に対して説明をするのは野暮だと思うんです。「視線の誘導をしている」という話ですが、僕もまんまとその誘導通りに見ているんだろうなと思いました。第一輪なら、花弁が出てくるくだりであったり、輪廻の枝で首を切って能力を得るショッキングな絵面も、目をそらしたくなるほど生々しくもなく、自然と見られるような色使いだったので、アニメを観た人が、だいたい同じような感想を持つのかなと思いました。
久藤 嬉しいですね(笑)。
千葉 それと原作が面白いというのは僕も感じていて、アニメだと、どうなるのかなと思っていたんですけど、僕の表現を許してくれたのは、この色調だからなのかなと思いました。これで東耶のトーンが重かったら、僕の芝居の感じだと暗過ぎたと思うので。
久藤 良かったです。僕の中では大きなプレッシャーもありました。もちろん自信を持って第一輪を作ってはいましたが、それをどう受け取るかは視聴者の皆さん次第です。ただ、初めて観た方にも、この作品の世界にスッと入ってもらえるようにはしたつもりです。
千葉 原作で読んでいるときにイメージしていたアニメ化より、『リィンカーネーションの花弁』の面白さを引き出すための工夫がされているんだなと思いました。
アニメだと、第一輪が一番大変ですよね。方向付けをするという意味でも。
久藤 かなり考えましたね(笑)。このタイトルは、最初の段階で映像化の難しさがあることはわかっていました。だからこそ、作画の迫力だけでなく、色を意識した画作りや目線誘導によって、作品の入口をしっかり作りたいと思ったんです。第一輪でその方向性を感じてもらえれば、その先は原作の面白さが自然に乗ってくれると信じていました。
千葉 映像のほうに意思がある作品だと、演じるほうは結構自由なんです。突然はさまってくる東耶のボケとか、それに対する誰かのツッコミとか、仮にそのシーンが丸ごとカットになったとしても、次のシーンで、その要素を盛り込んだ声色を作って持っていったら、それを全部OKにしてくれていた印象があるんです。たとえば序盤のエピソードだと、灰都さんが着替えていて、東耶が目を隠すところでアドリブを入れてみたんです(第二輪)。女の子に対するドキドキ感はないけど、見ちゃいけないものかどうかを判断する分別のある人なんだという要素を盛り込みたくて。そういうことをしても、映像はちゃんと進行していくので、僕的には工夫させていただきやすかったです。
久藤 今回のキャストの皆さんは、作品のことを本当に深く考えてくださる方々でした。僕としても、音の表現は大事にしたかったんです。作画が先に進行している部分があっても、キャストの皆さんがキャラクターに対して持ってきてくださる思いは、できる限り拾いたいと思っていました。音響監督の長崎行男さんとも相談しながら、現場で生まれた良い表現を作品に活かす方向で進めていました。
千葉 それは「原作準拠」ということですか?
久藤 原作の精神を大切にしながら、アニメとして自然に伝わる表現を選んでいくという感覚です。感情の流れの中で台詞のニュアンスが少し変わることもありましたが、原作サイドにもその場で確認しながら進めていました。
千葉 この原作って「てにをは」が特徴的なんです。本当に演出がうますぎて、コマ割りで脳内補完されていくから、文字情報がなくても面白い漫画なんです。だから漫画ではない媒体にしたときに文字だけを抜き出すと、確かに日常では使わない言い回しとか、体言止めを多用しているんですよね。ただ、僕は個人的に、なるべく原作のまま行きたいと思いながらやっていました。きれいに整えれば整えるほど、らしさが失われていく感じがしたので。
久藤 そこの匙加減は本当に難しかったです。限られた話数の中で構成する必要があるので、小西先生らしい言葉の魅力はできるだけ拾いながら、アニメとして視聴者に伝わりやすい形を選んでいきました。絵コンテの段階でも、かなり精査したつもりです。
千葉 でも結局、マインドさえ合っていれば、言葉が変わっても伝えられるのが本来の会話なんですよね。今回メインで入っているキャストの皆さんも、早い段階で「そこが味ではないんだな」と気づいていたと個人的に思うんです。だからキャスト側から、この文章は伝わりづらいんじゃないか?みたいな指摘は少なかった気がします。
久藤 本当に皆さん、作品について考えてくれていました。特にメインキャラクターを担当する役者さんたちは、僕ら制作側と同じ目線で作品に向き合ってくれているのが伝わる現場だったので、それはすごくありがたかったし、嬉しかったです。
千葉 アニメをよく観ている方の中には、音響監督がすべてのお芝居を決めていると思っている方も多いと思うんですけど、この現場は、監督やシリーズ構成のイシノアツオさんが、こちらのアフレコブースまで来て、コミュニケーションを取ってくれていたんです。だから、こちらからキャラクターのことや演出意図を聞くことができたし、いい緊張感にもなっていたんですよね。そういう意味で、空気作りが良い方向に作用しているなと思っていました。あと、第一輪で原作の小西先生が来てくださったことも嬉しかったですね。
久藤 そうだよね。僕もとても嬉しかったです。アニメとして新しい挑戦をしている部分も多かったので、先生に現場を見ていただけたことは大きかったです。
原作・小西先生とアニメの関わり。そして、キャスティングについて
原作者との関係性はどうだったのでしょうか?
久藤 第一輪と第二輪を観ていただくとわかると思うのですが、アニメでは構成をかなり再整理しています。最初に小西先生にお会いしたとき、先生がたくさんの資料や、今の視点で考えた新しいアイデアを見せてくださったんです。その中で、「アニメならではの新しい『リィンカーネーションの花弁』を見せてほしい」という期待を伝えていただきました。
とはいえ、原作を大切にしている方がたくさんいらっしゃる作品ですから、どう作っていくかは慎重に話し合いました。先ほど話した「色を付ける」という段階で言うと、東耶と灰都は、周囲のキャラクターが強いからこそ、TVアニメでは早い段階から魅力が伝わるようにしたいと思っていました。そこをどう見せるかが、僕がこのアニメで特にやりたいことのひとつでした。
シリーズ構成のイシノさんにもその考えを伝え、限られた話数の中でどこまで原作の魅力を届けるかを一緒に考えていきました。今回の構成は、イシノさんがかなり整理してくれた部分も大きいです。
千葉 アニメはアニメでやってくださいというのが先生の口から出ると、僕としては、ドライな印象を抱くんですけど、決してそういうわけではなかったんです。第一輪の収録でお話したテンション感だと、そもそもアニメ化できたことに対してポジティブな空気というか、感謝みたいなものがあって、自分のやってきたことに対するさらなる手応えみたいなものを感じているようにも見えたんです。それに「これはこう演ってください」と言われることもありえるのかな?と思ったんですけど、丸投げというわけでもなく、東耶を僕に任せてくださっている感じがしたんですよね。僕としては、漫画のテイストの音声再現というよりは、東耶をリアルに考えたときに、こうじゃないですか?という感じで演じていたつもりで、それがピークで出ているのが、たぶん第一輪なんです。
久藤 うん。そうだと思う。
千葉 僕、監督や長崎音響監督と、主人公として一緒にお仕事をするのは初めてだったので、「この人、できない人なんだ」と思われたらおしまいだし、僕、できますよ!みたいな感じでやったほうがいいのかな?とも思ったんですけど、東耶ってそういう人物じゃないし、頑張れば頑張るほど引っ込める人だと思ったので、そういう意味で、第一輪はドキドキでしたし、だからこそ、先生にも会えて良かったです。
久藤 そんなことを思っていたんですね。それは意外。僕は第一輪の段階から千葉くんには大きな信頼を持っていましたし、率直に言って、千葉くんしかいないとすら思っていたんです。
千葉 それは嬉しすぎます(笑)。
久藤 今回のメイン3人、東耶、灰都、ノイマンは、それぞれこの方にお願いしたいという思いが強かったんです。だから第一輪の段階で、キャラクターへの向き合い方は信じていたし、逆に演じる上で悩みがあれば、それを一緒に掬い上げることに集中しようと思っていました。
千葉 スタジオオーディションの台詞が少なかったので、どこを判断基準として見ていたのだろうと思っていました。そう思っていただけていたことが嬉しいです。
ちなみに、どこを判断基準にしていたのですか?
久藤 理由はいくつかあります。声質ももちろんありますが、一番大きかったのは、声優さん個人個人の性格を見ていたんです。スタジオオーディションで長崎さんから「偉人の能力を手にできるなら何を手にしたいか」と聞かれたとき、千葉くんはすごく真面目に、的確に答えていたんです。その温度感が、東耶に通じるものがあると感じました。
千葉 あははは(笑)。
久藤 そのあと、原作をしっかり読んでいると話していて、作品に対する熱量も感じました。東耶は俯瞰で周りを見た上で判断するところが魅力のキャラクターなので、その感覚が千葉くんからも伝わってきたんです。だから、お願いしたいという気持ちはかなり早い段階でありました。
すごく豪華なキャストですからね。
久藤 本当にありがたいキャストの皆さんに集まっていただけました。こんなメンバーになるとは、僕が一番思っていなかったかもしれない(笑)。
千葉 僕に関しては、人間性がにじみ出ていたんですね(笑)。
久藤 そうそう。千葉くんが持っているマイナスな部分もプラスの部分も、東耶を演じてもらう上でちょうど良くて、すごく活きていたと思います。
その意味では、灰都やノイマンも近いところがある感じがしますね。
久藤 そうなんです。灰都役の丸岡和佳奈さんも、ノイマン役の佐倉綾音さんも、それぞれのキャラクターと響き合う部分がとても多かったと思います。ノイマンは物語の流れを支える特に重要な存在なので、知的な説得力と芝居のコントロールが必要な役でした。以前お仕事をご一緒した際も、知的なイメージが佐倉さんに感じてはいたのですが、オーディションのお芝居を見て改めてその印象が強く残りました。
そこに、柔軟に受け止めながらも芯のある千葉くんと、真っ直ぐで常に全力な感覚の持った丸岡さんが加わることで、3人の関係性が自然に立ち上がると思いました。実際、アフレコでお芝居を聞いて、狙っていた以上の形になったと感じています。
千葉 嬉しいです。でも僕は3人の並びを見たとき意外でした。僕と全然違うタイプのお二人で、生き方が違うと思っていたので。ただお話を聞いていると、だからこその三角形なんだなと思いました。
久藤 そうだよね(笑)。それぞれ違うからこそ、交わりそうで交わらない3人の距離感が出たと思います。結果的に、その関係性がアフレコでも自然に表れていました。
千葉 丸岡さんのお芝居って、中性的ですよね?
久藤 そうそう!あれは驚いたし、彼女の持っている武器であり、個性だなと思いました。やらしく感じないお芝居が自然とできるんです。
千葉 わかります! 猫なで声みたいなのを出すシーンで、異性に対するそれ!というのが際立つと、急に生々しくなって、友情を飛び越し過ぎている感じになるけど、丸岡さんは、声質もあると思うのですが、それがないんです。
久藤 本人の性格もあるんでしょうね。真っ直ぐだからこそ変な混じり気がない。そこは彼女のすごさだと、聞いてて思っていました。
小西先生が持ってきた資料の中身とは?
少し話を戻してしまうのですが、先生が最初に持ってきた資料は、どんなものだったのですか?
久藤 たくさんありましたが、特に印象的だったのは、先生ご自身が「今、もう一度作るならこうしたい」と考えられていたアイデアです。1話の構成案にも細かく手が入っていて、今の小西先生がこの作品をどう捉えているのかが伝わってきました。
千葉 それはヤバい(笑)。その気持ちを今現在持っていて、これからアニメを作る人に見せられるということは、今の自分の感性が最新で最高だと思っているということですよね!
久藤 そういうこと!(笑)。過去に作ったものをそのままにするのではなく、今ならこう見せたいという視点を持ち続けていらっしゃるのが、とても刺激的でした。灰都が転校生として出てくるという要素も、先生からいただいています。
千葉 そうだったんですね!
久藤 小西先生は、とにかく情報量がすごいんです。作品に関する文章や資料をたくさん送ってくださって、アニメ化への感謝も含めて、自分にできることがあれば何でも協力しますという姿勢を強く感じました。
質問をしたら、文章が長めに戻ってくるということですか?
久藤 はい。とても丁寧に返してくださるんです。その上で、最終的には「監督に一任します」と言ってくださる。その信頼をいただいているからこそ、こちらも責任を持って考えなければいけないと思いました。
千葉 すごく分かるなぁ。僕もそのタイプですね。僕、カエサルの武器の設定の出し方で、作風がめっちゃわかったなと思ったことがあって。バトルものって、そのすごさを伝えるために相手に語らせたり、視聴者に分かるようにナレーションが入っていたりするんです。でもこの作品には「この設定、絶対になくても成立するのに、出てくるからこっちが知りたくなる」という面白さがあるんです。原作には、キャラクターの説明が書いてあるんですけど、こっちが知りたくなるような掘り下げ方をしているんですよね。たとえば(カエサルの武器の)「ソードブレイカー」とか、僕は知っていたけど、知らない人は気になってしまう。その実在性の出し方がすごく上手いんですよね。誰でも知っている偉人と、そうじゃない偉人が出てくるのとかもそうですよね。
久藤 もともと非常に博識な方なのだと思います。偉人や設定に関する情報も本当に細かくて、自分も制作中に知らないことを調べる機会が多かったです。作品の外側にある情報まで含めて、世界観が広がっている作品だと感じました。
その莫大な情報量を、1クールにまとめるのも大変でしょうね。
久藤 そこは、シリーズ構成のイシノさんがかなり支えてくれました。情報をどう整理して、どこを見せるかという部分を徹底して考えてくれていたと思います。僕自身も相談しながら進めました。
情報を絞りながらも、なおかつわかりやすくしてくれていたシリーズ構成・脚本だったと思います。
久藤 イシノさんとは密にやり取りしながら、構成や台詞を最後まで調整していました。決定稿になったあとも、現場でより良くなる表現があれば相談して反映していく。そういう関係性があったからこそ、今回の形にできたと思っています。
改めて振り返る、これまでの見どころ。
ここからは第十二輪までを振り返って、印象に残っているシーンを振り返っていただきたいと思っています。
久藤 みんな良いシーンがありますが、東耶で言うと、やはり第一輪が大きいです。そこで僕はかなり安心しました。アニメとして新しく組み立てた部分に対して、千葉くんが「僕の東耶はこうです」という答えを出してくれたと思ったんです。第一輪はぜひ見ていただきたいですし、最終話の千葉くんのお芝居もぜひ見てほしいです。
千葉 灰都とのやり取りはどうでしたか? 東耶の芝居的に、灰都に対するアプローチという部分で、結構受け身だったんですけど。
久藤 それがすごくよかった。実際の関係として、灰都が前に出て、東耶がそれを受け止める。その結果、第十輪前後で2人の感情が絡まっていくところがあるんです。東耶は一見、灰都のことを考えていないようにも見えるけれど、本当はすごく考えている。そのニュアンスが芝居から伝わってきました。第十輪の2人の掛け合いのすれ違い感も良かったですし、第九輪のビンタのカットも、叩かれた瞬間のリアクションをしっかり見せることで、2人の感情が伝わる場面になったと思います。
千葉 そこに息を入れるというディレクションがありましたよね。入れるということは、大事なんだなと思いました。
久藤 普段のアクションがクイックに進む作品だからこそ、2人にとって大事なわだかまりを見せる場面では、少し生々しさを残したかったんです。そこで2人が本当に良い芝居をしてくれて、感情がしっかり乗ったので、見ていてとても良かったです。
千葉 嬉しいです。
2人が大事にしていた約束を違えるところでもありますからね。
久藤 あそこの東耶はすごく揺れているので、どう組み立てるかはかなり考えていました。アニメの現場にもそのイメージは伝えていましたし、演者の皆さんがそれ以上のものを乗せてくれたので、安心しました。
千葉 アフレコが終わったあと「不安だったけど、大丈夫だった」と言ってくださいましたよね(笑)。僕としては、東耶って、ちゃんと答えがある上でしゃべるキャラクターだから、「え!? 東耶、もしかして寝返った?」とか「闇落ちした?」とか、説明したくなるんですけど、周りが、ちゃんと自分を生きていてくれたので、僕がどっち付かずなトーンで話し出すことが許されていたんですよね。それは汲み取っていただいて、ありがたかったです。
久藤 真っ直ぐに行ったけれど、裏切られたと感じた灰都の心情を、丸岡さんはそのまま用意して出してくれていましたからね。難しいシーンだったので、アフレコは長引くかなと予想していたのですが、そんなこともなくとても自然に形になりました。
千葉さんは、印象に残っているシーンはありますか?
千葉 僕は、小西克幸さんと上田麗奈さんのお芝居かな。初めて原作を読んだときに、こちらが感じる予想外な感じと、アニメでじわじわわかってくる速度が、印象として同じだったんです。それは、原作を読んだままやったら、そうなるものでもなくて、しっかり心情を理解した上で「このタイミングではこう思っている」というのを出せているから、受け取る側の印象が確定すると思うんですよね。だから2人は文章を読み取る力が本当にすごいんだなと、あらためて感じました。特に小西さんの演じていた項扇羽は、変にカッコよくとか、変に悪くできるキャラクターで、そうやってしまいがちだけど、一切それをせず、ちゃんと項扇羽のキャラとして一本化して、しかもドラマがあったので、なかなかできないことだと感じました。
久藤 小西さんにお願いして良かったと本当に思いました。もともと原作が好きだというお話を伺っていたのですが、こちらが考えているプランを受け止めた上で、「自分の中の項扇羽はこうです」というものを出してくださいました。それが我々にとってのベストな芝居をしてくださったので…もう脱帽でした(笑)。
具体的なシーンというのはありますか?
千葉 僕は西耶のことを教えてくれた話が一番良かったです。結果、俺が悪いでも、あいつが悪いでもなく、最善の策を取ったけど、今こうなっているというところで、項扇羽自身が納得している感じが醸し出されていたんですよね。どうしてそれができるのかはわからないんですけど、きっと、ご本人が納得しているからなんでしょうね。あと、時系列が移動するキャラでもあったんですけど、そのあたりもすごかったです。。
西耶を殺したのは項扇羽というところで、兄の仇みたいになるのかと思いきや、東耶は教えてくれたことに感謝していましたね。それも、項扇羽の言葉の説得力があるからこそですが。
千葉 そこでは、もっと感謝を持ったほうがアニメとしてはいいのかなと思ったんです。でもそのときの東耶の感謝って、まだ感謝をする土壌に立ったことへの感謝くらいだと思ったので、感情が追いついていないんです。その置いてけぼり感をやらせてもらえて良かったなと思いました。もっと「ありがとうございましたっ!」みたいに言ったりするのかと思っていたので。
久藤 もしそこで大きく感情を出していたら、少し抑えてもらったと思います。おっしゃる通り、彼の中でまだ咀嚼できていないし、それが次につながるから、あれがベストの「ありがとう、ございました」だったと思います。あそこで本当に感謝しきってしまうと、第七輪で話が終わってしまうので(笑)。
千葉 それはすごく思いました。結局、東耶が兄に対するトラウマを取っ払ったことって、大きな出来事だけど、実は大したことではないというか。マイナスがゼロになっただけに過ぎないのかなと思いました。
西耶も廻り者で、天才ではなかった、というのがわかったのが、第六輪でしたからね。
久藤 あと、第八輪の佐倉さんもすごかったです。ノイマンが宣戦布告をする場面ですが、あそこでは複数のノイマンの状態をコントロールする必要がありました。通常のノイマン、その話数で登場するノイマンⅡ、そしてナイチンゲールに隷属させられているノイマン。それぞれを自分の中で整理して、バランスを取りながら台詞を言ってくださっていました。
当日のアフレコでは、事前に佐倉さんと「ノイマンⅡはAI的な存在ではあるけれど、単に機械的にするのではなく、感情の見え方も大事にしたい」という話をしました。すると佐倉さんはその場で意図を理解して、それならノイマンⅡはこうだろうという演技を出してくださったんです。
過去回想で東耶と2人で会話するシーンでは、少し優しいノイマンも見せている。そこから、ナイチンゲールに隷属させられているノイマンまでを同時にコントロールし、流れを変えずに、全員が入りやすいように考えてお芝居をしている印象がありました。それを自然にやってくださったことに驚きました。
千葉 ノイマンⅡが出てきたとき、僕もハッとさせられたんですけど、この人は、すでにノイマンについては掘り下げ終えているんだなとも思いました。つまり発露のパーセンテージを変えるだけで、人間性の見え方を変えているんだと思ったので、心強かったです。なので東耶としては、珍しくリアクションが大きかったです。
ノイマンⅡがいてくれて、本当に安心していましたからね。
久藤 こちらが思っている以上に準備をしてくださっているのが伝わってきました。千葉くんや丸岡さんと同じように、お忙しい中でノイマンというキャラクターを受け止めるために時間を使ってくださっているのを感じたので、佐倉さんにはすごく感謝しています。
ナイチンゲールについても聞きたいのですが、上田さんのお芝居が見事にハマっていたと思うのですが、いかがでしたか?
久藤 皆さん、どのシーンが好きなんでしょうね(笑)。やはり宣言する第十輪でしょうか。上田さんは、場の空気を作るのが本当に上手い方だと思いました。あの優しいウィスパーな声質の中で、圧倒的な存在感を出して、場を支配するような緊張感を生むのはかなり難しいと思うのですが、本当に見事でした。聞いたときは思わず「上手い…」と言葉が出ていました(笑)。その時隣にいた長崎さんも同じリアクションをしていましたね(笑)。本当にナイチンゲールは上田さんにお願いできて良かったと、あらためて思いました。
千葉 芝居が上手いかどうかって、わかりやすく声質を変えるとか、抑揚の付け方とか張り感とかが、そのシーンに合っているかどうかで見られがちだけど、上田さんのナイチンゲールの本性の出し方って、最初からそうだったんですよというのが、聞いた瞬間に分かるようになっているんです。それは上田さんがわかっていたからなんですよね。全部をあざとく作ることは誰でもできるし、そのキャラが裏切っていたら、みんなが驚くし、実際ナイチンゲールのあれって、誰がやってもびっくりはするんですけど、「あぁ、だから今までそうだったのか」って、じわじわわからせられるんですよね。だから、あそこはもうあれでしかなかったんですよね。自分は脳内再生をせずに漫画を読んでいるんですけど、もはや聞いたことがある感じすらしました(笑)。
久藤 あれは本当にすごかったです。上田さんはキャラクターを咀嚼しきってから芝居に没入するタイプだと思っていたので、事前に小西先生にお願いしてナイチンゲールのネタバレ含めた情報を一通り頂いていました。第二輪のアフレコのタイミングでそれをお伝えしたんですが、きっとそれが彼女の中のナイチンゲールが形になって、第十輪の演技につながったんだと思っております。
千葉 ラスボス的なポジションなのに、そういう作り方をしていないし、舞台装置には絶対にならないというリスペクトを感じたというか。ひとりの人間として考えているんだなと思いました。
久藤 キャラクターへの向き合い方がとても真摯だからこそ、あの組み立てができるのだと思います。今回、皆さんそれぞれに見せ場がありましたし、それにしっかり応えてくださるキャストの方々に集まっていただけました。アフレコに関しては、とても完成度の高いものになったと思っています。本当にベストな座組だったと、あらためて感じています。
では最後に、最終話は、どんなことを楽しみにしてほしいですか?
千葉 僕はもともとは主人公が主人公らしいほうが好きなんだなと思いました。主人公が巻き込まれるだけのほうが、今のアニメを見慣れている方が共感しやすいのかなと勝手に思っていたんです。でも、この作品は東耶を立てようとしているので、今のアニメの良さと、少し懐かしい部分の良さが上手く調和している気がしたんです。原作を読んでいるときは、東耶の良いところを見てみたいとは思わなかったので。
久藤 そこは僕の中でも大きなテーマでした。東耶をどう見せるか、彼がどういう主人公なのかを、ひとつの形として届けたいと思っていました。ラストの見どころは、やはり東耶と灰都の2人の掛け合いです。ドラマとしても楽しめるところになっていると思います。
千葉 すごく活躍していますよね。
久藤 うん。してる!原作でももちろん活躍していますが、アニメでは見せ方を整理することで、より伝わりやすい形になっていると思います。
千葉 僕は、そのアプローチを聞いていたから、オリジナルシーンが爆盛りされているのかと思ったら、そうではなく抽出の仕方なんだと思いました。だからこそ僕は演じやすかったですし、これを任せてもらえるというところで、1クール分の重みも感じたので、気持ちよく意気込めました。
久藤 東耶がこうあってほしいというものを、ちゃんと渡せる構図にはしていたつもりです。それを千葉くんはしっかり受け止めてくれましたし、それは観ている方にも伝わるのではないかと思っています。
千葉 当たり前に、続きを演じたくなるような、エネルギーがある最終回でした。